本研究は、公共空間における監視カメラ設置数の増大は避けられないであろうことを前提に、一般市民が、自らのプライバシと引き替えに監視カメラから得られるメリットとして、「安全」という重要だが眼に見えにくい価値の他に、眼に見えて便利さを実感できる新しい付加価値の在り方を提案し、それを実現する基盤技術を創成することを目的とする。 新しい付加価値の在り方として、具体的には、従来、カメラの設置者のみが利用していた監視カメラ映像を、被写体である一般市民も利用可能とすることを前提に、歩行者が持つPDAなどの携帯型情報端末に監視カメラ 映像を適切に加工した映像情報を提示し、自分の眼では直接見ることが出来ない視覚情報を歩行者に提供する「シースルービジョン」を提案する。シースルービジョンとは、スーパーマンが持っている、物体の透視能力を備えた眼を意味し、歩行者が目の前のビルなどの遮蔽物を透視して遠方を見ることが出来る機能を端的に表現するキーワードとして、本研究の標題に採用している。しかし、ネーミングに際してのもう一つの重要な意図として、監視カメラ映像の「透明性」を高める、すなわち、監視カメラで何が撮影されているかを被写体である一般市民が日常生活の中で容易に把握できる環境を提供する、という意味合いが込められている。 シースルービジョンを実現するための基盤技術として、本研究課題では、4年の研究期間内に以下の項目について研究を実施する。 (1) 位置・姿勢計測機能を持つ携帯型情報端末の試作 (2) 監視カメラ映像から得られる情報を援用した携帯型情報端末の高精度な位置・姿勢推定技術の開発 (3) 監視カメラ映像を歩行者の視点に視点変換し、携帯端末の映像と違和感なく整合させるための、幾何的整合技術と光学的整合技術の開発 (4) (3)で得られた映像を、情報端末の画面上に重畳し、擬似的にシースルー提示する場合に、歩行者が直視できる現実世界と、仮想的にシースルー提示される世界との重畳方式の開発と評価 (5) 歩行者が自分の周辺にある監視カメラの配置を意識することなく、注目領域を適切に撮影している監視カメラ映像に容易に辿り着くことを可能にする視点ナビゲーション技術の開発と評価 (6) 監視カメラ映像にたまたま写り込んでいる人物のプライバシを保護するため、人物の顔領域を自動検出してモザイク処理を行うプライバシ保護技術の開発 (7) 一定範囲内にある監視カメラの映像を統括し、歩行者の要求を受け付けて、要求とマッチングする部分映像を選択し、必要に応じて加工して配信する映像サーバシステムの開発
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