研究概要 |
本研究の目的は近年急速に進展しつつある「計算代数統計学」(computational algebraic statistics)の研究を, 我が国でも強力に推し進めることにある. 計算代数統計学は,統計科学と代数学, さらには代数生物学とも密接な接点を持ち,これらの異分野間の交流の中で今後大きな学問的成果が期待される分野である. この分野は統計的モデリングを中心として, 計算可換代数学とバイオインフォマティクスが結び付いており, これらの分野から若い研究者が参入している. 我が国では,純粋数学者と数理統計研究者の間の住み分けが固定的となりがちであるが, 本プロジェクト研究では,代数の専門家を含め, 異なる分野の研究者が交流する形の学際的研究がおこなわれている. 数理統計学においては, 実験計画法における有限体の理論, 統計的決定理論における変換群論とハール測度の応用, 多変量分布論における連続群の表現論, 離散データ解析における有限群の表現論, など伝統的にも様々な形で代数学が使われて来た. これらはそれぞれ一時代を画す研究成果をなしたが, 最近の計算代数統計学の発展は, 統計学と代数学の関係においてより大きなインパクトを持ち得るものである. それは代数学の研究者自身が計算代数統計を旗印にしていることにも見られる. 計算代数統計学の分野でこのような学際的交流が進んでいるのは, 最近になって代数学が「実際に計算できる分野」へ変貌をとげつつあるという背景がある. 実際に計算できることから具体例への応用が進み,その中で新たな問題が意識されるという循環が生まれている. Sturmfelsの主張するように,多変数多項式を利用する分野にはすべて代数学が関わるとするならば, 計算できる代数学の応用範囲は非常に広範であり, より大きな影響を与えると期待できる.
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