本研究では、哺乳類中枢神経系の単一シナプスの機能と形態の動態を明らかにし、その制御機構の解明をめざしている。中枢シナプスのはたらきは、その使用状況により維持・強化・減弱されるが、個々のシナプスレベルで何が起こっているかは明らかになっていない。シナプスを形成する一対の培養神経細胞に異なる波長の蛍光色素を導入し、高解像度のレーザー顕微鏡によるシナプス前後部両者の形態観察と電気生理学計測を組み合わせ、各シナプスが無刺激・高頻度刺激等の様々な状況に応じて、その機能および形態をいかなる時間経過でどのように変化させるのかを解析している。本研究では、細胞種の同定が容易な小脳の顆粒細胞とプルキンエ細胞間のシナプスに特に注目した。顆粒細胞には蛍光蛋白質のGFPを発現させ、またシナプス後プルキンエ細胞にはAlexa594をガラス電極より注入し、シナプスを形成している一対の神経細胞を可視化した。軸索での活動電位発生をテトロドトキシンで抑えた状況で、顆粒細胞シナプス前終末付近を局所電気刺激することにより、少数シナプスで発生したシナプス電流を記録できた。同じ刺激を何回も繰り返してシナプス応答を多数回記録して、シナプス応答のユニットを求めた。そうしたところ、単一シナプス小胞により引き起こされたと考えられる単位シナプス応答の大きさおよび時間経過が、シナプスごとでかなりばらつくことが判明した。シナプス応答の特徴とシナプスの位置・形態との相関を調べることにより、シナプス応答の多様性の原因の解析を行っている。また、プルキンエ細胞上に形成される抑制性シナプスでの伝達制御に、GABA受容体および微小管形成タンパク質であるチュブリンと結合するGABARAP、および代謝型グルタミン酸受容体mGluRlが関与すること等、も明らかにした。
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