研究課題
われわれは、これまでの研究から、脳に入力する信号は感覚の種類によらず空間の中で定位された後に時間的に順序づけられるという仮説を提案した。本年度の研究では、左右の手に加えた皮膚刺激と、2つの視覚刺激を用いて、この仮説の検証を目的とした3つの実験を行い次の成果を得た。1.左右の手に加えた2つの皮膚刺激の時間順序判断が同時に与えた視覚刺激の影響を受けるかどうかを調べ、刺激時間差100ms程度の場合には特に強い影響を受けることを見出した。時間差が100msを越えるとその効果が減弱していくことから、100ms程度の時間差で強く現れる「仮現運動」の信号が皮膚刺激の時間順序判断にも寄与するのではないかと推測した。2.Morroneら(2005)はサッケードの開始前後300ms程度の範囲で様々な時間差の視覚刺激を与えてその時間順序を判断させ、サッケード直前100ms以内に時間差50ms程度の視覚刺激を与えたときその順序の判断が逆転することを2名の被験者で報告した。われわれは6名の被験者で追試を行い、Morroneらの報告と基本的に一致する結果を得た。3.サッケードによる逆転の効果は皮膚刺激の時間順序判断にも及ぶだろうか。我々は左から右へのサッケードの開始前後の様々なタイミングで、正中矢状面内の上下に配置した左右の手に皮膚刺激を加え、その時間順序判断を検討した。その結果、視覚刺激の場合と同様に、サッケード開始直前に刺激時間差50ms程度で与えた皮膚刺激が最も逆転しやすいことを見出した。サッケードは異種の感覚信号に基づいて生成される「動き」の信号に影響を与えて時間順序判断を逆転させるのではないかと推測した。これらの結果は皮膚刺激も視覚刺激も空間的な動きの情報を使って時間的に順序付けられることを示唆している。次年度は機能的磁気共鳴画像法と磁気刺激を組み合わせ、脳のどの領域が時間順序判断に責任があるのかを調べていく。
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Experimental Brain Research (in press)
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