研究概要 |
シナプス後肥厚部(PSD)の分子構造と動態については,個々の分子についての記述は多く存在するが,それらの分子群の動態の基礎となる構造についてはこれまで明らかになっていない。PSD構造は樹状突起スパイン内に形成され,スパインの形態形成とリモデリングにはその細胞質に存在するアクチン細胞骨格が重要な役割を果たす。PSDを構成する複数の足場分子(scaffoldingmolecules)群についてGFP融合分子を作成し,その動態をタイムラプスイメージング法および蛍光消退法を用いて解析してきた。平成19年度には以下の解析を行った。 1.PSD構造とアクチン線維を繋ぐ役割を果たすと考えられているシナプス後部に集積するアクチン結合蛋白質であるcortactinの遺伝子座にloxPsiteを導入した変異マウス(cortactinfloxmouse)を作成した。このマウス由来の海馬培養スライス標本にCre遺伝子を発現させ,樹状突起の形態およびスパイン構造の変化を解析し,cortactinがノックアウトされた細胞でも樹状突起およびスパインの形成自体は起きることが明らかになった。更にCaMKII-Cretransgenicmouseとcortactinfloxmouseを交配し,前脳特異的にcortactin分子を欠失したマウスを作成した。このマウスの行動に異常が認められるか,今後確認する予定である。 2.大脳皮質の錐体細胞のシナプス動態を解析する目的で,invivo二光子イメージングを行った。頭蓋骨を薄く削る方法を採用して,長期間に起きる皮質第一層の樹状突起に形成されるスパインの寿命を測定した。数週間で形成・消失するスパインの割合は5%程度で,多くのシナプスは長期的に維持されることが示唆された。この結果を基にして,シナプス可塑性に障害を持つ遺伝子改変マウスのシナプス寿命を測定する予定である。
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