研究概要 |
これまでの検討で血管内皮細胞が血流の変化の情報を流れ剪断応力の変化として感知して細胞内へ情報伝達する径路に細胞外カルシウムの流入反応が関わっていること,及び,そのカルシウムの流入はATP作動性カチオンチャネルであるP2×4を介していることが明らかになった。さらにP2×4の活性化の上流には剪断応力による内皮細胞からのATP放出反応が重要な役割を果たしていることも判明した。本年度は剪断応力によるATP放出反応の分子機購について解析を行った。その結果,このATP放出反応がATP合成酵素の阻害薬であるAngiostatinやOligomycinで消失することからATP合成酵素の関与が示唆された。Angiostainは細胞膜を通過しないことから,膜表面にATP合成酵素が存在すると考えられたが,実際にATP合成酵素の抗体を用いた免疫染色でそのことが確認された。トリチウム標識したADPを加えると速やかにトリチウム標識のATPが膜表面で産生されることから膜のATP合成酵素がATP産生能力を有していることが示された。膜のATP合成酵素は禰漫性に分布するのではなく細胞膜のフラスコ状陥凹構造物であるカベオラが集中する細胞辺縁の局所に分布していた。膜のコレステロールを減少させる,あるいはカベオラの構成蛋白であるカベオリン-1をsiRNAで減少させてATP合成酵素とカベオラのco-localizationを破壊すると剪断応力によるATP放出反応が消失した。このことから膜のATP合成酵素が剪断応力が誘発するATP放出反応に役割を果たすためにはカベオラに存在することが必須の条件であることが判明した。
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