生体の血管内皮細胞には剪断応力(shear stress)だけでなく、拍動する血圧による伸展張力(cyclic strain)も同時に作用する。したがって、例えば血管内皮細胞の遺伝子発現に及ぼす血行力学因子の影響を知るにはshear stressとcyclic strainを同時に作用させて解析する必要がある。しかしながら、これまで両刺激を培養細胞に定量的に負荷できる装置が存在しなかった。本年度はそうした装置を開発し、shear stressとcyclic strainをそれぞれ単独、及び同時負荷したときの内皮遺伝子変化を解析した。血管収縮作用を持つエンドセリンの遺伝子の発現はcyclic strain単独で増加し、shear stress単独では減少した。一方、同時に負荷すると両刺激の効果が相殺されるのか、遺伝子の発現レベルに変化が起こらなかった。血管拡張作用を持つ一酸化窒素(NO)の合成酵素の遺伝子では、cyclic strain単独で発現は変化せず、一方、shear stress単独では増加した。同時に負荷するとshears tress単独と同じ程度の遺伝子発現増加が生じた。これらの結果から、内皮遺伝子に及ぼすshear stressとcyclic strainの効果は、単独負荷と同時負荷で異なることが示された。
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