本年度は以下の3点について成果を得た。 1) 上肢痙性麻痺に対する治療 痙性片麻痺に対する電気刺激とボツリヌストキシンの併用治療が、慢性期であっても麻痺上肢に一定の機能改善をもたらすことが明らかとなったが、これに対するコントロールとしてのボツリヌストキシン単独治療例が不足していることから、単独治療を5名で実施した。臨床治療としての有効性を検証する上では、さらに数例での治療が必要な状況である。本研究で開発した筋電駆動型電気刺激装置を、近位筋力の低下が著しく肩関節の運動時痛を有する片麻痺の肩周囲筋に適用し、2週間の訓練を実施したところ、肩関節機能の速やかな改善と疼痛の軽減が得られた。この結果は、片麻痺上肢の新しい機能改善手法として、国際FES学会で報告した。 2) 下肢痙性麻痺に対する治療 片麻痺下肢へのボツリヌストキシン単独治療、電気刺激との併用療法については、いずれも効果が十分ではなく、適応の再検討が必要と考えられた。一方下肢の痙性麻痺に対する電気刺激では、大腿四頭筋への刺激によって、同筋の筋活動減少とこれに伴う膝関節運動範囲の拡大が得られ、歩容の改善に有用であることが判明した。この結果は国際電気生理運動学会で報告した。また骨本生体医工学会誌に掲載予定である。 3) 神経因性膀胱に対する治療 電気刺激単独では頻尿・尿失禁の改善が十分ではない神経因性膀胱患者1名で、内視鏡下に膀胱粘膜および筋層ヘボツリヌストキシン200単位を施注し、その後の経過を観察した。昨年度は電気刺激との併用での効果確認を行ったが、今年度はボツリヌストキシン単独投与での効果確認を行った。単独投与によっても、無抑制収縮と尿失禁の消失、膀胱容量の拡大は認めるもの、尿失禁を防止できる期間が併用時よりも短かく、併用療法の方が有用性が高いと考えられた。
|