研究課題
地球環境は大気、水、生物、岩石など構造的にも物質的にも異なる圏によって構成されている。これら圏全体の人間活動による劣化が深刻化しており、圏相互の関係を高い精度で把握する物質動態解析法が求められている。本研究は、地球化学の分野でそれぞれ独自に発達してきた生元素からなる軽元素安定同位体(C, N, 0, H, S)と金属元素(あるいはミネラル元素:Sr, Nd, Pb)からなる放射性起源の安定同位体を、淡水域および陸域の生態系に同時かつ横断的に適用し、生物の食物網、産地判別、代謝、移動など、生物とその周囲の環境との相互作用および生物体内での物質動態を解明する方法の確立を目的としている。昨年度は種々の基礎実験を実施し、その結果、最先端の表面電離型質量分析装置を用いることにより、数ナノグラムと微量でも、高精度でSr、Nd、Pbの安定同位体組成を分析できるようになった。とくに水のストロンチウムの安定同位体分析は、一度に36試料を処理できるシステムを構築ですることに成功した。新規に購入した土壌水採水装置を用いて土壌から水を抽出し、その安定同位体分析も可能となった。また、小型試料薄片化装置と顕微鏡装置を設置により、微小部試料を採取と観察が可能となった。本法の適用により、京都の地下水の人為汚染の実態とその起源について新たな知見を得ることができた。琵琶湖産の魚のSr同位体組成を実施した結果、湖からの遡上に伴い河川のSr同位体組成の値に変化することが判明し、魚の移動や生理について見通しを得ることができた。鮎のPb同位体組成が岩石ではなく日本の大気鉛の値に近いことが判明しつつある。いっぽう、大気鉛の安定同位体組成は、地域によって異なることを明らかにし、国際誌Atmospheric Environmentに報告した。これらの結果から、鮎をはじめとする生物の鉛同位体組成が、大気鉛の影響を受けて地域によって異なる可能性が示唆され、更に検討を進める予定である。19年度は入手した多数の試料について、Ndの安定同位体分析を確立すると共に、Sr-Pb-Nd同位体分析を精力的に進め、これらを指標に用いた環境同位体トレーサビリティー法の可能性について更なる検討を行う。
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Atmospheric Environment v.40
ページ: 7409-7420
H Functional Ecology v.20
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