研究課題
本研究の目的は、各種の安定同位体を用いて地球環境における物質の流れを追跡し、生態系への影響を評価する環境トレーサビリティー技術を開発することにより、新たな環境動態研究の創出することにある。過去二年間の研究により、表面電離型質量分析装置(トライトン)を用いて、水や岩石、生物試料のストロンチウム、鉛、ネオジミウムの安定同位体のルーチン分析が可能となった。とくにSr同位体分析については、東太平洋の海水の^<87>Sr/^<86>Srが第四紀を通して0.709175±10^<-6>以内と分析誤差範囲内で均質であったことを確認しており、公表に向けて準備中である。マルチ安定同位体手法を琵琶湖流域に適用した結果、農業地域の河川には肥料由来の硫黄の寄与が大きいこと、さらにそれらが過去40年にわたって琵琶湖湖水の性質を大きく変えていることを明らかにし、2編の論文として公表した。淡水湧水域に特徴的に生息する魚(イトヨ)についての検討では、Sr-鉛同位体が生息域の特定に有効であり、その一部は国際誌に印刷中である。高精度のSr同位体分析により、海水に対する淡水の寄与の見積もりが可能となり、カキに適用した結果、その生息には70%以上の塩分が必要であることを示唆する結果を得た。陸域の植物は水域に比べて大気降下物の影響をより強く受ける。屋久島での検討によれば、周囲の海水由来のSrが植物に大きく寄与していることが判明した。一方、Sr-Nd同位体の検討からは、土壌のB層からA層に向かって黄砂由来の鉱物量が20-40%と増加すること、とくに細粒の鉱物ほど黄砂の寄与が大きいことが明らかとなり、現在投稿中である。今年度は、農産物の産地判別手法としての可能性についても検討を加える。
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