研究課題
本研究の目的は、各種の安定同位体手法を統合し、淡水域および陸域の生態系に横断的に適用することにより、環境質全体の動態の基盤情報となる「環境トレーサビリティー手法」の開発を目的としている。平成20年度ますに確立した安定同位体手法を適用し、以下の成果を得た。(1)琵琶湖流域で湖東平野の農業活動が河川および湖水の水質と同時に生物の質を変えていることを、ストロンチウムや硫黄の同位体を用いて明らかにし報告した。また琵琶湖で大きな問題になっているカワウの餌が、湖内の魚であることをSr同位体比からも明らかにした。(2)山形県や愛媛県の湧水および河川-地下水系に応用し、淡水魚の生息範囲や行動の追跡、海底湧水の生物影響評価できることを明らかにした。とくに、淡水保全の象徴であるイバラトミヨに応用した結果、その生息域が非常に狭い範囲に限定されていることを明らかにし、Sr同位体手法が生物の縄張り域の評価に適用可能なことを示し報告した。(3)コイのSrの50%程度は餌による可能性を指摘し、魚に含まれるカルシウムに対する餌の影響評価にSr同位体が利用できることを明らかにした。また地質時代のサンゴの分析から、第四紀を通した海水のSr同位体比は0.00001以内と均質な事を報告した。(4)土壌系では、8年ごとに大発生する長野県八ヶ岳地域の汽車ヤスデにSr同位体手法の応用を図った。その結果、汽車ヤスデは7齢まではその行動が非常に狭い範囲に限定されること、いっぽう8齢の時期には活発に移動することを明らかにし、生態学的観察と良い一致を示すことを確認した。(5)中国からの越境汚染の影響を強く受けている屋久島や対馬において研究を行った。対馬については、基盤の岩石の安定同位体情報を専門誌にまとめたが、越境汚染の水と生き物への影響評価を行う上で、鉛の安定同位体が有効であることを確認した。
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地球環境のトレーサビリティー. 安定同位体というメガネ(和田英太郎・神松幸弘編)(昭和堂)
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