研究概要 |
平成18年度は現場調査により、細胞内に硝酸態窒素(NO_3)を高濃度(〜2,000mM)に蓄積するイオウ酸化細菌(Nitrate Accumulating Sulfur Oxidizing Bacteria, NA-SOB)の動態と堆積物からの硫化物(ΣH_2S)の溶出との関係、及びNA-SOBと鉄(Fe)循環との関係について研究を行った。未撹乱堆積物コアを用いて堆積物中のFeの形態別(FeOOH、Fe^<2+>、FeS、FeS_2)濃度プロファイルを測定する手法を確立するために、デンマーク国立環境研究所に10月下旬から12月上旬まで滞在してH.Fossing博士と在外共同研究を行った。Feの形態別濃度プロファイルの測定は、堆積物コアを嫌気グローブボックスを用いて窒素(N_2)雰囲気下で処理し、形態別抽出試料を分光光度計を用いて吸光光度法で測定する方法を用いた。また、S循環及びFe循環に対するNA-SOBの影響がpopulationにより異なる可能性を検討するために、浦川秀敏博士及びJ.L.Nielsen博士と協力して、定量PCRによるNA-SOBのbiomass及びpopulationの高感度検出法を開発した。以上の手法開発を行ったのち、東京湾湾央部の1地点において、堆積物表層におけるNA-SOBのbiomass、population、intracellular-NO_3濃度、ΣH_2Sの濃度プロファイル、堆積物からのΣH_2Sの溶出速度、及び堆積物中のFeの形態別濃度プロファイルについての現場調査を行った。底層水の溶存酸素濃度が高い冬季には、堆積物表層には10〜25mmのΣH_2Sが存在していない層が形成されていた。しかし堆積物表層のNA-SOBの密度は検出限界以下であり、またΣH_2Sとの反応性が高いと考えられる形態のFe濃度も検出限界以下であった。これらの結果は、ΣH_2Sの酸化過程として、NA-SOB及びFeが関与していない新たな過程が機能している可能性を示唆している。
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