平成21年度は、平成20年度に引き続き、培養実験系を用いて□H_2S、NO_3-、及びO_2の動態に関係する水-堆積物間のフラックス、濃度プロファイル、硫酸還元反応等の代謝速度、及びFeの形態別濃度プロファイル等を測定し、massbalance等からNA-SOB(細胞内にNO_3-を高濃度に蓄積するイオウ酸化細菌)による□H_2Sの酸化過程を解析した。またNA-SOBが、Fe循環に影響を与えることにより間接的に□H_2Sの酸化を促進している可能性についても検討を行った。その結果、堆積物からの□H_2Sの溶出抑制機構として、Fe及びNA-SOB以外に、これまで全く未知の生物電気化学的過程が重要な役割を果たしていることが明らかとなった。そして平成19~20年度に行った東京湾湾央部における現場調査結果について解析を行い、東京湾湾央部においてもこの生物電気化学的過程による□H_2Sの酸化が堆積物からの□H_2Sの溶出抑制機構として重要な役割を果たしている時季があることを明らかにした。□H_2Sの酸化に限らず、堆積物中の生物地球化学的物質循環過程の大部分は酸化-還元反応であるので、細胞外電子伝達系を通じた微生物間の電子伝達が堆積物中の微生物群集による生物地球化学的物質循環過程において重要な機能を担っている可能性は極めて高いと考えられる。NA-SOBによる堆積物からの□H_2Sの溶出抑制機構においても、NA-SOBと細胞外電子伝達系との相互作用が関与している可能性が考えられるが、その詳細については今後の研究課題である。
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