研究課題
本研究では、量子ナノ構造においてサブピコ秒の時間スケールで高速に運動する電子が放出・吸収するTHz電磁波を検出・解析することにより、電子の実時間領域における運動に関する情報を得ることを目的としている。平成20年度には、以下の3点について研究を遂行した。1. 量子構造の構造パラメータとテラヘルツ利得スペクトルの関係の解明 超格子構造におけるブロッホ振動の説明には、半古典的なミニバンドの描像とシュタルク梯子状態の2つが適宜用いられてきた。今回、フェムト秒レーザパルスで励起された電子波束の振動位相について詳細な検討を行い、従来のミニバンド描像から予想される位相とは90度シフトしたものであることが明らかになった。この振動位相は、並進対称性を持ったシュタルク梯子状態を仮定しなければ説明できず、バンド内の電子の伝導に関する基本的な知見を得ることに成功した。 さらに、ブロッホ発振器の実現に向けて、超格子の表面に金属フォトニック結晶構造電極を作製し、ブロッホ振動によるテラヘルツ放射の波形とスペクトルを解析し、ブロッホ周波数がフォトニック結晶のブリルアンゾーン端の周波数に近づくと特異な振る舞いが観測されることがわかった。現在、その解明を行っている。2. バルク半導体中の過渡伝導と谷間遷移利得 GaAsなどの化合物半導体中では、低電界では電子は有効質量の小さいΓ谷に存在するが、印加電界が高くなるとより有効質量の大きなΞ谷、Λ谷に遷移し、それにより微分負性抵抗(ガン効果)が発生することが知られている。本研究では、時間分解テラヘルツ分光法を用いることにより、加速される電子の有効質量が電界印加とともに、バンド間混合の効果により重くなること、また、谷間遷移によるテラヘルツ利得の帯域がフォノン放出時間で制限されていることを明らかにした。3. 単一InAs量子ドットトランジスタにおける電気伝導特性の解明 単一のInAs量子ドットの上から、金属や強磁性体、超伝導体で作製した極微細ギャップ電極を形成し、電子スピンや超伝導クーパー対に依存した新奇な電気伝導現象を観測した。量子ドットの成長温度の最適化を行うことにより、テラヘルツ応答を観測しやすいトンネル抵抗に調節することに成功した。また、テラヘルツ電磁波の照射実験を行ったところ、クーロン振動に系統的なシフトが観測されたが、その起源などは現在検討中である。4. 単一分子素子の作製の最適化 通電断線法により単一分子レベルの極微細ギャップを有する電極を作製している。特に、エレクトロマイグレーションと呼ばれる金属の断線現象が、電子1個から原子1個への運動エネルギーの移動により誘起されていることを見いだした。
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