研究概要 |
血液脳関門に発現しているABCトランスポーター(ABCB1,ABCC1,ABCG2等)の基質にならず、効率的に脳移行する新規脳腫瘍治療薬の分子デザインを実施する。また、これらトランスポーターを阻害する薬をデザインし、既存の制癌剤が脳腫瘍に到達できるようにすることが本プロジェクトの目標である。平成18年度、我々はABCトランスポーターABCB1(P-gp/MDRI)、ABCB11(BSEP)、ABCG2(BCRP/MXR1/ABCP)の基質特異性を定量的に解析するために高速スクリーニングおよび定量的構造活性相関(QSAR)解析を実施した。ABCG2またはABCB1を発現させた昆虫細胞から形質膜を調製し、その膜ベシクルの輸送活性をモニターして阻害スクリーニングを行った。その際、我々の研究グループが開発した高速スクリーニングシステムを用い、QSAR解析にはChemical Fragmentation Codesを用いた新規方法を用いた。その結果ABCB1では、複数の芳香族環が炭素鎖で結合し、それらが自由に揺らぐことのできる構造をもつ化合物が良い基質であると判明した。一方ABCG2では、ヘテロ環が重合して平面構造を持ち、水酸基のある化合物が基質として認識されることが明らかになった。また高速スクリーニングとQSAR解析にABCB11を導入した理由は、脳をターゲットとする薬分子がデザインされても肝臓毒性が引き起こされてはならないので、その安全性を検証するためである。ABCB11を阻害して胆汁鬱滞を引き起こす可能性のある構造的因子を同定し、トログリタゾンはその典型的な分子であることが判明した。これらの研究成果を次の論文に発表した:J. Pharmacol. Exp. Ther.317(3):1114-1124,2006;Mol. Pharm.3(3):252-265,2006。さらに、血液脳関門において薬分子の中枢移行で重要な役割を果たすABCB1(P-gp/MDR1)とABCG2(BCRP/MXR1)の遺伝子多型と基質特異性の変化との関係を定量的に解析し、中枢神経系への薬分布に大きく影響する一塩基多型(SNP)を同定した:Mol. Pharmacol. 70(1):287-296,2006;J. Exp. Ther. Oncol. 6(1):1-11,2006;Cancer Sci. 98(2),231-239,2007;Biochemistry in press,2007。 また、バッカチン誘導体に基づくABCトランスポーター阻害剤の分子デザインを行った。C-アロマタキサン骨格の9員環エーテル化合物をリード化合物として2,5,14位を様々に官能基化することにより、ABCB1阻害能力の向上を図った。ABCB1発現細胞系で検証して、多剤耐性抑制剤の候補化合物を選定した。
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