近代日本の戦没者慰霊について、戦争紀念碑と戦没者墓地・墓碑を考察対象として、それらの悉皆調査と関係者への聞き取り及び文書資料・文献資料などの収集を通じてその実態を把握し、それを基に関連する分野を総合して科学的な分析を行うことによって、日本における戦没者慰霊の特徴を解明することを目的としている。このため、日本という国家と社会を全体的視点から把握し、さらに日本の特徴を東アジア近隣諸国やヨーロッパキリスト教世界及びイスラム世界の比較、さらに第二次世界大戦で同じ敗戦国となり国際的に常に比較対象となっているドイツにおける戦没者慰霊との比較を行うとともに、逆に戦勝国となったイギリス・フランス・イタリアやさまざまな立場に立たされて戦中戦後の時代を築いていったトルコ・ギリシャ・キプロス・マルタ・ノルウェー・デンマーク・スペイン・ポルトガルを中心に比較するなかで、「日本の特徴」(相違と共通)を見ることによって国際的位置を明らかにして行くことに努めている。 かかる研究目的と基本方針から、調査研究の対象を、(1)戦没者慰霊を象徴する造形物、(2)戦没者慰霊にかかわる関係史資料、(3)戦没者慰霊を担っている組織に絞り、これについてその実態の把握を行った。(1)については、主に(1)軍人墓地における戦争紀念碑・慰霊碑・忠魂碑等や墓碑石と関係物、(2)戦没者墓地における祈念碑・慰霊碑・忠魂碑や墓碑石、(3)一般人墓地における戦没者墓碑石等、(4)戦争紀念碑(戦役紀念碑や戦勝紀念碑)、(5)戦争紀念物、(6)戦争関係構築物と関係物、(7)一般構築物における戦没者慰霊物(銘碑板を含む)を具体的に調査した。 調査の方法では、網羅的全部調査と悉皆調査を原則とし、収集データは筆写(形状・文字・造形)、簡易測量(構築物と用地・敷地などを含む)、電子化写真、電子化ビデオ、音声録画又は録音として採集するが、軍人墓地や戦没者墓地などにおいて数千以上の同型物(形状・規模・文字情報の項目)については抽出法により筆写と測量と、写真及びビデオ撮影による画像記録採集とを併用して行った。ここで、電子化写真やビデオ、音声録画などにより資料を収集するのは、安価であることと活用が容易であることにあるが、さらに収集資料データを一般公開する際には予め電子情報化資料としておく方が便利であると考えているからにほかならない。 (2) の関係史資料については、電子化写真撮影記録・電子式複写記録により収集し、文献資料については購入などにより収集した。電子化資料とするのは、前項の目的にもよっている。 (3) 戦没者慰霊を担っている組織、つまり墓地の建設・管理や墓碑石の建立、さらに慰霊祭などの執行を含めてそれらを管轄している組織・機関・団体ついては、自治体の機関や関係機関・団体、管轄したり管理している機関や団体において関係者を含めて聞き取り調査を行ったり関係史資料の収集を行う。特に、ドイツ人戦歿者墓地についてはドイツ戦歿者墓地慰霊協会の全面的な協力を得て行っている。 調査地としては、国内では社会的・文化的・宗教的側面と現代性・地域性、さらに都市部と農村部に島嶼とを基準に全国的視点から、国際的には東アジア近隣諸国での仏教的世界と非宗教的世界・ヨーロッパキリスト教世界・アラブイスラム教世界から抽出して行った。
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