研究の最終年度である本年度も、精神医療関係者と法学研究者からなる研究会を頻繁に開催し、これまで行ってきた心神喪失者等医療観察法(以下、「法」、「医療観察法」)に関するモリタリング調査の成果を踏まえて、再度同法の理念と構造を検討し、本法における法理論的問題点とその運用における実際上の問題点の検討を行った。具体的には、(1)責任能力の概念と判断、(2)医療観察法と精神保健福祉法における医療との関係、(3)薬物中毒犯罪者、性犯罪者、人格障害者の処遇の実態等々である。 また、同法施行5年後の見直しを念頭に置いて、これまで行ってきた、スイスとドイツの訪問調査の成果、すなわち、スイス・チューリッヒ州法務局の関係者によって開発された、触法精神障害者に対するリスクアセスメントの方法、ツールなどの再検討、およびドイツにおける、触法精神障害者の処遇に関する法制度、その運用状況、その処遇の実態、鑑定制度、地域精神医療の実態などについて、再度分析・検討を行った。 さらに、本年度は、最近、今後のわが国における、重大な他害行為を行った精神障害者の処遇に関する法制度を検討・構築するにあたって参考とすべき改正を行ったイギリスの法制度、および医療観察法が制定された際に、その医療実務のモデルにしたといわれている同国の精神医療の実態などについて調査を行った。具体的には、同国の司法精神医療機関、一般精神医療機関、精神障害者の人権保護団体、矯正施設、地域精神医療機関などを訪問・視察し、精神医療関係者、法執行機関の担当者をはじめ、それぞれの機関・団体の関係者と意見交換を行い、わが国の法制度および精神医療との実態との比較検討を行い、それに基づいて、医学的および法学的観点からの問題点の分析を行った。
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