研究概要 |
2001にJournal of Differential Geometryから発表された論文おいて, S.K.ドナルドソンは偏極多様体がスカラー曲率一定ケーラー計量をもつならば漸近的チャウ安定であることを,自己同型群が離散的であるという仮定の下に証明した.一方満渕俊樹は,自己同型群が離散的でない場合,まず, 2004に偏極多様体が漸近的半安定であるための障害があることを示し,次に,この障害が消えるという仮定のもとにスカラー曲率一定ケーラー計量をもつならば漸近的チャウ安定であることを証明した.当該研究者は2004年に発表した論文において,満渕によって見いだされた障害は,いくつかの積分不変量が消えることと同値であることを示し,この積分不変量の一つはいわゆる二木不変量と呼ばれる,スカラー曲率一定計量が存在するための障害と一致することを示した.この結果から,スカラー曲率一定計量をもてば漸近的半安定であるための障害は必然的に消えるのではないか,ということが問題となっていた.今年度,小野肇と佐野友二と行った研究において,これらの積分不変量の解析を行った.その結果,これらの積分不変量が決める正則ベクトル場全体のなすリー環の指標全体の張る線形空間は,トーリックFano多様体の場合はヒルベルトシリーズの微分全体のなす線形空間と一致することが証明された.さらに,一般には普遍的な線形従属関係があることがわかり,この線形空間の次元は多様体の次元とは一致しないが, 1次元よりは大きくなる例があることが確かめられた.以上の結果の理論的背景にはMartelli-Sparks-Yauによる佐々木多様体のvolume minimizationがある.この観点から佐々木・アインシュタイン計量の存在問題との接点についても研究した.
|