本研究は、8m級望遠鏡では他に例を見ない広視野を有するすばる望遠鏡の主焦点全面を、波長分解能λ/Δλ=30-50で観測できるグリズム分光装置を開発し、遠方の輝線銀河を多数検出して宇宙大規模構造の進化を調べることが目的であった。波長4000Å-5800Å用(青玉)と波長5500Å-7000Å用(赤玉)の二つのグリズムを、平成18-19年度に成功裏に製作した。 本年度は、平成19年度から独自開発の方針の下で開発をスタートしたデータ解析ソフトウエアを完成させた。これによって、平成19-20年度に取得した、赤玉を用いた観測データの処理が可能となった。観測は天候に恵まれず、露出時間は予定の半分以下であった。約10時間露出のデータから、1視野で53個の輝線銀河を検出できた。最遠方のものは赤方偏移z=4.1であった。十分な露出を行えばほぼ予定通り、遠方の輝線銀河を検出できることが確認できた。また本年度は、当初予想もしなかった、太陽系の小惑星の起源の研究にこのグリズムが大変効果的であることがわかり、新たな観測プロポーザルがすばる望遠鏡で採択され、その試験観測も成功裏に行われた。サイエンスの検討では、ビッグバンから僅か8億年後の宇宙でみつかった巨大なライマンアルファ輝線銀河の性質を調べたほか、赤方偏移z~7にある銀河の光度関数から、宇宙における星生成率密度の振る舞いを描き出した。それによると、z~7での星形成率密度は、z~2-3におけるピーク値の約10分の1に落ちるが、100分の1よりは大きいことがわかった。宇宙再電離の理論モデルと比較することにより、z~7にある銀河の性質が現在の銀河とほぼ同じとすれば、これらの銀河だけで宇宙再電離を引き起こせないことがわかった。
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