本研究は、基線長100mの神岡レーザー干渉計CLIOにデータ収録・解析装置を組み込み、重力波観測を行うことが目標である。都市部に比べ地面振動が2桁以上小さい地下環境では、良質なデータが蓄積できることが最大のメリットである。CLIOに併設されたレーザー伸縮計で観測される地殻ひずみデータも重力波解析に有効であり、偽信号除外のために活用できる。また、パルサーからの連続重力波の探査は、低周波域の外来雑音が小さいことが必須であり、CLIOの得意とする観測の一つである。さらに、ガンマ線バースト原が発見された時刻の周辺を重点的にデータ解析することは物理的意義がある。主要な重力波源である連星中性子星合体が、ガンマ線バースト源の一つと考えられているからである。 観測環境は大事であるが、最も重要なのは観測装置の感度である。CLIOの感度は着々と上がってきたが、今年度は特筆すべき進展があった。100Hz付近の感度が、サファイアミラーや振り子の熱雑音で制限するところに達したのである。これまでに、ミラーの熱雑音で決まる感度をもつレーザー干渉計は存在したが、両方の熱雑音を同時に見たのはおそらく世界で初めてのことである。また、それ以下の周波数帯では基線長4kmのLIGOの感度を上回っていた時期もあり、そのときに観測したデータを解析することにより、Velaパルサーからの重力波に対して上限値を算出し、査読付論文を出した また、光軸調整を自動的に行うアラインメント制御系など、無人運転のための準備が進んだ。残念ながら、最高感度で観測データを取り、そのデータを解析するところまではいかなかったが、国際会議からのCLIOの現状報告という講演依頼もあり、十分な成果が出たと判断できる。
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