超流動^3He、特にA相と呼ばれる相では流れと秩序パラメータの関係を記述する方程式がテクスチャーと呼ばれる特有の空間構造に依存し、かつエネルギーギャップが消失する点がフェルミ面上に存在するために散逸の効果が重要となるなど、流体力学的な性質には複雑で多様な要素が存在する。この特異な液体における流体現象には、まだ多くの未知の現象があるが、わずかな研究がなされているに過ぎない。本研究は、超流動^3Heの流れを超低温領域で実現し、回転により制御されたテクスチャーのもとで流体力学的な性質を調べることで、超流動^3Heと素粒子論との対応について研究することを目的とした。 今年度は3年間の研究計画の最終年度にあたる。超流動^3He表面上の電子結晶の伝導現象に関してこれまでに得られている実験結果を理解するために、定量的な理論解析を行った。その結果、磁場中B相のテクスチャーが表面に垂直に配向していることが明らかになった。この構造は表面近傍でのみ理論的に期待される構造であり、表面から離れるにしたがってテクスチャーは表面と平行になることが期待される。しかし、実験結果からはそのような空間構造に対応する結果は得られていない。この矛盾はテクスチャーの中を運動する準粒子が重力レンズ効果に対応する、曲がった空間の影響を受けているものと仮定すると説明がつく。この効果についての定量的な理論計算が必要である。 ^3He薄膜の超流動転移の詳細な測定が進行中で、これまでの理論的予想に反する転移温度の抑制が確認された。超流動^4He表面下のイオン移動度の速度依存性に、量子渦のない単連結空間から量子渦を伴う多重連結空間への巨視的なトンネル現象によると考えられる、不連続な転移を観測した。この現象は宇宙のスタートとも関連する興味深い現象である。
|