これまでに拡充してきたCH_4濃度の広域観測を継続し、地球規模のCH_4濃度の分布と変動の実態を明らかにした。さらに、CH_4の炭素同位体比(δ^<13>C)・水素同位体比(δD)測定装置を駆使し、CH_4同位体の広域観測も実施した。対流圏上部のCH_4濃度およびδ^<13>CとδDの季節変動は、熱帯と南半球では対流圏下部とほぼ同期し、北半球では夏季に対流圏下部でCH_4濃度が低くなる一方で、対流圏上部では高いCH_4濃度と低いδ^<13>CとδDが観測された。同位体と濃度との関係から、微生物起源のCH_4放出がこのCH_4濃度の増加に寄与していることが示唆された。対流圏下部では、CH_4濃度は北半球高緯度に向かって高く、南半球ではほぼ均一な緯度分布を示した。また、δ^<13>CとδDは、北半球高緯度に向かって低く、南半球ではほぼ均一な緯度分布を示した。この緯度分布を用いて、モデルから南北両半球のCH_4放出量を微生物起源、化石燃料起源、バイオマス燃焼起源に分けて推定した。その結果、得られた各放出量は、独立な他の手法によるCH_4放出量の推定値と良い一致を示した。 南極大陸やグリーンランド氷床上部のフィルン層から採集した大気試料も分析することにより、過去250年間の濃度と同位体変動の実態を明らかにした。それによれば、20世紀に入ってから、CH_4濃度が急増するとともにδ^<13>CとδDも急増したことが明らかになった。さらに、CH_4に関連する大気化学反応過程をモデルに組み込み、シミュレートすることによって、これまでのCH_4濃度の経年変動の原因を明らかにした。その結果、水田などの湿地から放出されるCH_4が過去250年間で徐々に増加し、その増加傾向が現在に近づくほど大きくなることや、化石燃料起源の放出量が20世紀に入ってから急増していることが明らかになった。
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