研究概要 |
本研究の目的は, 新生代における長期的な寒冷化は高等植物の進化と繁栄(大陸における活発な基礎生産)による顕著な炭素固定(大気二酸化炭素濃度を急減)が行われたために生じたのではないかという作業仮説を検証し, 生物進化が誘発する長期的な地球気候変動の可能性を検討することである. 地球気候変動の復元と比べると過去の大陸基礎生産量を評価することは容易ではない. 大陸基礎生産は降水量と密接に関係しているので, 本研究では過去の水循環を復元し間接的に地質時代の大陸基礎生産を復元することを目指した. 最終年度は, これまで検討してきたバイオマーカー水素安定同位体比による大陸湿潤性の復元法を基礎試錐「三陸沖」(資源エネルギー庁)の坑井試料と北日本の白亜系, 古第三系より採取した陸起源有機物に富む泥質岩試料に適用した. その結果, 始新世の植物ワックスの安定水素同位体比は-220〜-200‰の範囲にあり, 白亜紀や中新世のものと比べて明らかに30〜50‰程度小さいことが初めて明らかになった. 試料の熟成度から判断して, この値は植物成長時の水素同位体比を示していると考えられる. また, この値は現在の中緯度地域の植物の値と比較しても明らかに小さく, 始新世を通じて非常に水循環が盛んな湿潤気候であったことを示している. また, これは始新世の堆積物中に菌類に由来するバイオマーカーが非常に多いこととも調和しており, 始新世・漸新世の時期には低緯度から中緯度地域にかけた大陸において非常に高い基礎生産(陸上高等植物の繁栄)があったものと考えられる. これが大量の大気二酸化炭素の除去と固定を促し, 地球気候の長期的な寒冷化をもたらした可能性が高い.
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