研究概要 |
平成20年度は、前年度までに見いだされた、さまざまな地球化学試料中のユーロピウムの安定同位体変動について、その変動がいかなるメカニズムによって生ずるかをサマリウムとネオジムおよびストロンチウムの同位体変動と関連づけて解析を進めた。石灰岩等常温生成物に見いだされた安定同位体変動に、常温(低温)での同位体分別現象として、従来の論理でも説明が可能であるが、とくに花崗岩など,高温で生成した珪長質岩石に見出された変動を中心に検討した。 ユーロピウムの同位体は化学分離後、サマリウムを内標準物質として添加し、高知海洋コアセンターのMC-ICP-MSを用いて測定した。岩石中で2価のイオンとして挙動するストロンチウムの安定同位体は、84Srと86Srの安定同位体を添加するダブルスパイク法を用い,名古屋大学のTIMSを用いて測定した。その結果、玄武岩等苦鉄質岩石は、ε153Euが-0.8±0.5で一定であるにも関わらず、珪長質岩石では、ε153Eu=-8.8まで,軽い価をとることがわかった。おなじ試料を用いて測定した,ストロンチウムにも高い相関を持った傾向が見いだされた。さらにユーロピウムの同位体変化量(軽くなって行く割合)は,ユーロピウムの負の異常量と比例関係にあることがわかった。ユーロピウム異常量は,マグマ分別の量を示すことから、本研究で発見された同位体分別は,従来その存在が認められていなかった,高温での同位体分別を検出したものとみなされる。ただ、ユーロピウムとストロンチウムが,同じ2価のイオンで,マグマ分化と共に同位体が軽くなっていくが、鉄は,マグマの分化と共に,重くなっていく事が知られている。分化傾向が逆になる事から、同位体分別が,電荷の転換(ユーロピウムは通常3価のイオンが2価になり,鉄は通常のマグマ中では2価であるが、マグマ分化と共に3価が増えていく)にともなう同位体分別を見ている可能性も残されている。
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