本年度は、繰り越しを含む最終年度として、鉱物試料の同位体分析と研究のまとめに重点を置いた。 鉱物試料はI-type花崗岩、ハンレイ岩を用いた。花崗岩からは石英、斜長石、カリ長石、黒雲母を分離した。ハンレイ岩からは斜長石、輝石を分離した。火成岩標準試料は粉末をそのまま用いた。試料はHNO_3+HClO_4+HF混酸で分解後、陽イオン交換クロマトグラフィーでEuを単離した。そしてMC-ICP-MSを用いて同位体比を測定した。 花崗岩構成鉱物(石英・斜長石・カリ長石・黒雲母)では、斜長石、カリ長石が全岩に対し有意に重い同位体に富む一方、黒雲母は、全岩に対し有意に軽い同位体に富んでいた。また、ハンレイ岩構成鉱物(斜長石・輝石)では、斜長石が全岩に対して有意に重い同位体に富む一方、輝石は軽い同位体に富んでいた。ここで、重い同位体に富む斜長石、カリ長石は正のEu存在度異常を持つのでEuを+2価の状態で取り込みやすい。一方、軽い同位体に富む黒雲母、輝石は負のEu存在度異常を持つので、Euを+2価では取り込みにくく、+3価の状態で取り込みやすいと考えられる。Euの酸化還元反応において重い同位体が+2価に選択的に還元されるとすると、メルト中におけるEu^<2+>-Eu^<3+>間の酸化還元反応によって同位体分別が生じ、それぞれのイオンを各鉱物が選択的に取り込んだことで同位体比変動が生じたと考えられる。 特に、斜長石はマグマ分化の幅広い時期にわたって晶出し、マグマの分化と共にメルトから取り除かれるよって、斜長石に重いEu同位体が濃集する、という本結果は岩石の分化が進むにつれて軽いEu同位体比を持つ、という全岩標準試料の結果と整合的である。よって、マグマの分別結晶作用が全岩のEu同位体比変動に有意な寄与をしている可能性が高い事がわかった。
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