もし短時間にしか存在しない過渡的分子に対しても、その熱力学的性質を明らかにすることができれば、科学全体に対してのブレークスルーになるであろう。ダイナミクスと熱力学から得られる情報を統合することによって、化学反応の理解はより深まるはずである。時間分解熱力学量測定法の完全創生とこの手法を用いた蛋白質反応機構の解明を目的とした新しい検出手法の開発を行い、本年度は以下のような成果を得た。 1.多くのセンサータンパク質に見られるBLUFと呼ばれるドメインの反応に対して時間分解熱力学法を適用し、その反応が2量化反応であることを示し、そのダイナミクスを明らかにした。これは、他の手法では検出できないユニークな結果である。また、その熱力学的測定から、ダイマー形成がどういう原因で起こっているのかを示した。 2.PYPと呼ばれる光センサー蛋白質の構造変化を時間分解で調べ、その構造変化のダイナミクスを明らかにすることができた。それは分光学を用いて従来から提唱されていたモデルと異なっており、新しい反応機構を提案することに成功した。 3.熱力学と速度論を融合した時間分解熱力学手法を、アポプラストシアニンと言うタンパク質の折り畳み過程における熱力学変化を調べるために用い、その特徴を実験的に明らかにしてきた。その結果、これまでに考えられなかったほどの吸熱(正のエンタルピー変化)が観測された。今年度は、その理論的な解析を行い、水分子が排除されるためのエントロピーによる効果で折りたたみが進行していることを明らかとした。 4.古細菌の光受容タンパク質であるSensory rhodopsin II (SRII)のAsp75を置換した、D75N変異体について、その構造変化を示す部位の特定を試みた。長さの異なるトランスデューサーを用いて検討した結果、HAMPドメインと呼ばれる部位が大きな構造変化をしていることを明らかとした。
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