もし短時間にしか存在しない過渡的分子に対して、その熱力学的性質を明らかにすることができれば、科学全体に対してのブレークスルーになるであろう。ダイナミクスと熱力学から得られる情報を統合することによって、化学反応の理解はより深まるはずである。時間分解熱力学量測定法の完全創生とこの手法を用いた蛋白質反応機構の解明を目的とした新しい検出手法の開発を行い、本年度は以下のような成果を得た。 1.イオンポンプとして機能する代表的なタンパク質である、ハロロドプシンについて時間分解熱力学計測を行い、その中間状態のエネルギーや体積変化を決定することに成功した。その信号強度は、塩素イオンの存在を示し、その時間変化より、タンパク質内から塩素イオンが抜け出る速度と取り込まれる速度を決めることができた。このように、時間分解体積変化を用いることで、他の手法では観測することができない、光学的吸収のないイオンの空間的移動を見ることができるという新しい応用法を開発したと言える。 2.細菌の持つ青色光のセンサータンパク質であるTePixDと呼ばれる分子の機能に関する反応を検討し、光励起後の反応過程を明らかにした。これは吸収スペクトル検出などの他の光学的手法では全く観測できないダイナミクスであり、本開発手法の強力さを示すものとなった。 3.PYPと呼ばれる青色光センサータンパク質の反応中間体に対して、時間分解熱膨張係数測定を試み、成功した。これは歴史上、初めての時間分解測定である。現在、このデータをまとめ、報告する準備を整えている。
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