本研究は、flexibleに構造を変化しうる分子系についてコンフォメーションダイナミックスを量子力学的現象として観測し、その制御を目指すものである。本年度の成果は下記の通りである。 コンフォメーション変化をもたらす運動自由度について、幅広いエネルギー領域で振動準位構造を詳細に特定するために、非線形高分解能コヒーレント分光の開発に取り組んだ。昨年度に製作した、連続発振半導体レーザーをシード光とするパラメトリック増幅により単一縦モードのナノ秒パルス光を発生するシステムについて、様々な改良を加えて単一モード発振の安定性と出力を大幅に向上することに成功した。また、シード光を適切に位相変調したコヒーレントパルスを利用すると、非共鳴な誘導ラマン過程によっても状態分布の完全移動を実現できることを理論的に明らかにした。 また、非共鳴な高強度フェムト秒パルスとの相互作用によって分子運動のコヒーレントな励起状態を生成する方法論を用いて、ベンゼン2・3量体について分子間振動モードの量子波束の生成と観測を実現できた。具体的には、フェムト秒パルス光をベンゼンクラスターに照射し、その後にナノ秒色素レーザーを用いてREMPIスペクトルを測定したところ、振電バンドが変化することを見出した。さらに、2量体のバンドをプローブしながちフェムト秒パルス対によって励起を行なったところ、明確な量子ビートが観測された。ビートの周期は、既報の分子間振動バンドの振動数に対応しており、インパルシブラマン過程によって電子基底状態の分子間振動波束が誘起されたことを示す。同様の実験を3量体についても行い、分子間振動数に関する初めての実験データを得ることができた。
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