研究課題
塩基を用いたハロゲン化アルキルのアルケンへの変換反応は、有機合成上最も基本的な反応の一つである。しかしながら、この脱離反応における位置および立体選択性の制御は容易ではない。我々は、コバルト触媒とグリニャール反応剤を組み合わせることにより、2-ハロアルカン類の脱ハロゲン化水素反応が位置および立体選択的に進行することを見いだした。触媒量の塩化コバルトとカルベン配位子前駆体(IMes・HCl)の存在下、2-ブロモドデカンに対して塩化ジメチルフェニルシリルメチルマグネシウムをジオキサン溶媒中室温で作用させたところ、1-ドデセンが高選択的に得られた。本反応で用いているグリニャール反応剤の求核性は低く、様々な官能基を有する基質を用いた場合にも対応するアルケンが収率よく得られた。例えば、ベンゾイロキシ基を有する臭化アルキルもカルボニル基を損なうことなく対応する末端アルケンに変換できる。含硫黄芳香環を持つ基質の場合にも、問題なく反応が進行した。本反応は1)グリニャール反応剤とコバルト錯体より生じる電子豊富コバルト種からハロゲン化アルキルへの一電子移動、2)ハロゲン化物イオンの脱離による炭素ラジカルの発生、3)炭素ラジカルのコバルト錯体による捕捉、4)β-水素脱離の過程を経て進行すると考えられる。β-水素脱離に際し、立体的要因により末端側の水素が脱離しやすいため、末端アルケンが高選択的に生じる。本脱離反応は従来の強塩基によるE2脱離反応と反応機構が異なる。したがって従来法では困難な分子変換を達成できる。例えば、1-ヨード-2-フェニルシクロヘキサンから3-フェニルシクロヘキセンと1-フェニルシクロヘキセンを作り分けることもできる。
すべて 2008 その他
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http://www.mc.kyoto-u.ac.jp/mc2/summary-j.html