申請者はこれまでコバルト触媒とグリニャ-ル反応剤を組み合わせる独自の手法により、従来からよく研究されてきたパラジウムやニッケル触媒の反応ではなし得なかった新しい変換反応を数多く見いだしてきた。本申請の研究では、このコバルト触媒の際立った有用性をさらに高め、高い反応効率と選択性が求められる現代有機合成の一層の発展を図る。そのためには革新的新規触媒反応の開発を引き続き行っていくのはもちろんのこと、開発された反応を生理活性物質や機能性材料の合成に積極的に応用していく。具体的には、これまでほとんど例のないグリニャ-ル反応剤と第二級および第三級ハロゲン化物の交差カップリング反応の開発を集中的に行う。これにより任意の炭素-炭素結合生成を可能にする自在な交差カップリング反応の確立を目指す。こうして独自に開発した反応をプロスタグランジン類などの光学活性生理活性物質や液晶材料のような機能性材料の短工程合成に利用する。一方で、反応系中で生じているアルキルコバルト錯体はこれまで単離例はほとんどなく錯体化学的にも興味深い。また、その錯体レベルでの反応性について知見を得ることは更なる新反応の開発に多大なる進歩をもたらす。そこで独特の反応性が期待できる電子豊富アルキルコバルト錯体を単離し、その錯体としての挙動、特に有機ハロゲン化物への電子移動特性とアルキルコバルト錯体の熱的安定性を明らかにする。得られた知見を新反応開発に還元し、有機コバルト化合物の化学を複合的に発展させていく。
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