研究概要 |
従来の常識を覆す物性をもつ高強度,高弾性,高延伸性,高膨潤性ゲル「ハイパーゲル」の「刺激と応答」を分子次元で明らかにするために,中性子散乱を機軸とした実験的研究により詳細に解析,検討し,統計力学の観点に立った「結合相関高分子系」の分子物性物理を展開することを目的とし,以下の研究を行った。(1)クレイ高分子ナノコンポジットゲルの力学挙動とクレイ濃度依存性について研究した。コントラスト変調中性子小角散乱により,延伸下にあるナノコンポジットゲルの構造解析を行い,クレイ周囲に高分子の吸着層が存在すること,延伸に伴いクレイが延伸方向に並んでいくこと,などを見いだし,これらがナノコンポジットゲルの強靱な力学物性をもたらしていることを発見した。(2)ナノコンポジットゲルのゲル形成メカニズムを詳細に検討し,クレイ粒子を伴うパーコレーションでゲル化が起こることを発見した。(3)小角中性子散乱により弱荷電ゲルの温度誘起型ミクロ相分離のゲルサイズ依存性を調べ,ゲルサイズがミクロ相分離の大きさ程度になると均一収縮することを発見した。(4)高性能SANS用剪断セルを導入し,マイクロエマルション擬似架橋高分子溶液系の研究を行い,中性子レオスペクトロスコピー(Rheo-SANS)を展開し,せん断を与えるとゲル化する系のゲル化機構を詳細に解析した。(5)押し出し成形ポリプロピレンに見られるシシカバブ構造を小角中性子散乱により研究し,シシ(芯)となる部分は超高分子量成分からなるという従来の説を覆し,バルク系においてはむしろ低分子成分がシシ構造を形成することを見いだした。(6)ソフトマター研究用に小角散乱装置の高度化を行い,新しい装置について性能評価についての研究を行うと共に様々なアプリケーション(高圧セル,高温セル,剪断セルなど)を整備し,研究の幅を広げた。
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