研究概要 |
前年度は、GaMnAs/AlAs/MnAsナノクラスタ構造を用いることで縦型スピン注入三端子素子に必要な電気的スピン検出技術を確立した。本年度はスピン検出構造最適化を図るべくAlAsトンネルバリア膜厚依存性を評価した。GaMnAsおよびMnAsナノクラスタを同一条件で成長し、AlAs膜厚のみを2.2nm,3.2nm,4,2nmと変化させたGaMnAs/AlAs/MnAsナノクラスタ構造を作製しTMR比を測定したところ、AlAs2.2nm、3.2nmではTMR比は等しい値を示したにも関わらず、4.2nmではTMRが観測されなかった。よってAlAsトンネルバリアの薄膜化によりTMR比の更なる向上が望める構造設計指針を得た。さらに、スピン検出層となるMnAsナノクラスタの断面TEM観察によりAlAsトンネルバリア層の間に粒径が概ね5nmの均一なMnAsクラスタが一様分布していることが明らかとなり粒径制御が実現可能であることが確かめられた。 形状異方性を利用した磁化反転制御はデバイス応用上重要な基盤技術となる。そこで理論計算によりGaMnAs細線構造で形成される磁区構造への形状異方性効果の検討を行った。100方向を細線長手方向にとった場合、細線幅を0.2μm程度まで細くすることでGaMnAsに特徴的な90°磁壁を介した磁化反転から180°磁壁による磁化反転へと遷移することが明らかとなり、磁区構造への形状異方性効果が確認された。今後は、実験的にGaMnAs磁区構造への形状異方性を検出すべく、微細加工によるGaMnAs細線構造の作製と異方性磁気抵抗効果による磁化反転検出を進める。 半導体2次元電子ガス(2DEG)におけるRashbaスピン軌道相互作用はゲート電界制御可能であることから電気的スピン制御に有効な手段となる。しかし半導体へのスピン注入後、2DEGまで距離が遠ければその間にスピン緩和が生じスピン情報が失われるため、表面から浅い2DEGにおけるスピン軌道相互作用の評価が重要となる。そこで表面エッチングにより異なる深さの2DEGを用いてスピン軌道相互作用の評価を行った。その結果、表面からの深さが26.5nmから6.4nmの2DEGにおいてスピン軌道相互作用が1.47×10^<-12>eVmから2.41×10^<-12>eVmまで系統的に変化することが明らかとなり、表面に近い2DEGではより大きな有効磁場が得られることを示した。よって浅い2DEGを用いればスピン注入後の輸送中におけるスピン緩和が抑制され、さらに高速スピン制御が実現できることを明らかにした。
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