今年度は、自己組織的に量子井戸構造を形成する有機無機ペロブスカイト型化合物において、発光に関与しない有機層の、シンチレーションにおける役割を解析した。無機層を光励起した場合、異なる有機層の物質において、大幅に異なる発光効率が見出された。これは、主に結晶性の違いによるものであると考えられる。また、シンチレーション強度の時間プロファイルを、10Kから室温の範囲内で測定したところ、低温領域においてはエネルギー移動による立ち上がりが明確に観測された。これは、シンチレーション過程においてエネルギー移動が重要な役割を果たすことを示す明確な結果である。また、有機層に利用する化学種の違いにより、発光効率そのものが異なることをも見出した。これらの結果から、有機層の違いによる結晶性の差や、有機層から無機層へのエネルギー移動効率が、当該物質系のシンチレーション特性にきな影響を与えることが示された。 一方、超微粒子をドープした結晶においては、超微粒子とマトリクスからのそれぞれのシンチレーション成分の分離に成功した。これは、電子線ライナックを利用したシンチレーション強度の時間プロファイル測定において、いくつかの波長域のバンドパスフィルターを用いて得られた結果である。特筆すべきなのは、マトリクスから長寿命シンチレーション成分が観測されたことである。これは、超微粒子形成に関与しなかった不純物イオンによるものであると結論付けられ、この除去が今後の課題として残された。 これらのシンチレーション過程に関する基礎的な知見は、ナノ材料シンチレータの性能を高める上で必要不可欠なものである。
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