研究概要 |
磁気共鳴イメージング(MRI)法は、水分子とプロトンに含まれる水素原子核に共鳴する電磁波を照射することにより、非破壊・非侵襲で物体内部の状態を計測できるという他の計測法にはないアドバンテージを有している。本研究では、我々のグループが開発した電磁波を透過させない電極で挟まれた電解質膜内の水分のモニタリングを電磁波の照射を高度に制御する手法により計測する技術をさらに発展させ、これまで把握が困難であった膜内の水分が、水素を起源とする生成水、水素に加湿される水分ならびに酸素に加湿される水分のどの寄与が支配的なのかを明らかにすることを目的としている。 研究初年度は、磁気共鳴イメージング(MRI)装置(現有設備)内での計測が可能な非磁性材料から構成される燃料電池セルに、温度と湿度を高度に制御する機能が付与された燃料電池評価システム(現有設備)から水素と酸素が供給されるが、これに新たに水素または酸素に加湿する水(H_2O)の替わりに重水(D_2O)を、水素(H_2)の替わりに重水素(D_2)を切り替えて供給可能なシステムを構築し実験を行い、以下の知見を得た。 (a)非発電状態において、アノード,カソード共に供給ガスとしてD_2Oで加湿した窒素を供給した場合、MR画像の時間変化から、電解質膜内の信号強度が外側から、ほぼ左右均等に減少していく様子の可視化に成功した。このことから、加湿されたD_2Oが膜側面に達し、膜内を満たしていたH_2Oと置き換わっていく過程の計測が可能となり、さらに、左右両側からほぼ均等に信号強度が減少していたことから、非発電時においては、アノード、カソード両側からほぼ均等にD_2Oが膜内に入っていくことが明らかになった。 (b)水素を燃料とした発電状態(加湿相対湿度は両側共に85%,電流密度は0.15A/cm^2)において、アノード、カソード共にD_2Oにて加湿した場合のMR画像の時間変化から、非発電時に比較して膜内H_2OがD_2Oに置き換わるのに要する時間が長くかかることがわかった。これは、カソード側において発電によってH_2Oが発生しているため、膜内のH_2Oに対するD_2Oの比の増加率が小さくなるためである。 (c)発電時において、アノード側では信号強度があまり減少しておらず、カソード側は大きく信号強度が減少していた。このことより、本条件においては、アノードからではなく、カソードからD_2O,つまり加湿水が膜内に入っていることが明らかになった。これより、本実験においては、PEM内の水分移動方向はカソードからアノードの方向であり、電解質膜の含水に寄与しているのは生成水およびカソード側加湿水であり、アノード側加湿水はアノード側からの膜内水分の蒸発を防ぐ役割を担っているにすぎないことが示された。
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