研究概要 |
本年度は平成19年度までに得られた触覚知覚の原理的解明に関する知見を基に,高品位皮膚感覚ディスプレイ装置実装に向けた研究を行った。特に,人間の知覚特性から,触覚情報を伝達する場合,力覚と皮膚感覚に分けて行うことが妥当であるとの知見に基いたハイブリッド,マスタスレーブハンドシステムの開発,実装,及び人間の触知覚に関してマイスナ小体に着目した物理モデルを提案し,心理物理実験による検証を行った。以下に詳細を述べる。 高品位皮膚感覚ディスプレイ装置として,触覚のマスタスレーブハンドシステムの開発を行った。具体的には力覚情報と皮膚感覚情報の両方を伝達できる,ロボットハンドを用いたマスタスレーブシステムの構築を行った。システムの構築には,2種類の触覚情報を取得できるセンサを取り付けたスレーブハンドと,電気刺激装置を搭載したマスタハンドを使用する。これによって,従来は操作者に対し力覚情報のみを提示していたものが,皮膚感覚を含んだ触覚情報を提示可能なものとなった。なお,実機を米国サンディエゴ,国内(東京)において数千人に対してデモ展示を行い,高い評価を得た。 また,本研究では機械刺激と電気刺激を併用することを考えている。併用には二つの利点がある。第一に,それぞれが異なる受容器(すなわち皮膚変形の異なる時空間領域)を狙うことにより,相補的に高品位皮膚感覚提示が実現可能となると思われる点,第二に,同一の受容器を電気,機械で刺激する事による感覚閾値の低下,およびそれに伴う感覚のダイナミックレンジ拡大である。本年度はこれらの緒元の研究の一端として触覚受容器のひとつであるマイスナ小体に着目し,先行研究を踏まえた上で,マイスナー小体が構造的に伸び方向の変形に変形し易く検波を行っているという仮説を提唱し,心理物理実験によってマイスナー小体によるAM検波が行われている可能性を示した。
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