本研究の目的は、脆性破壊で決まる鋼構造部材の塑性変形能力すなわち破断変形能力を明らかにすることで、特に地震時のランダム振幅下での挙動を対象としている。 今年度は、まず鉄骨ラーメン構造で破壊が起きやすい柱-梁溶接接合部を対象として次の検討を行った。 1.破壊起点となりうる溶接ビード周辺の形状と材質を部分試験体を製作して調査した。 2.部分試験体の調査結果に基づいて有限要素解析を行い、多軸応力状態とひずみ集中を明らかにした。 用いた部分試験体は次の3種類とした。 部分試験体A:突合せ継手、部分試験体B:T継手、部分試験体C:角形鋼管-通しダイアフラム溶接仕口 上記の3種類の試験体から溶接ビードを傷めないように丁寧に機械切断法によってマクロ試験片を採取した。採取位置は破壊の起点となりうる溶接止端を含むようにした。マクロ試験片を研磨エッチングして次の調査を行った。 調査1:ミクロ形状測定、調査2:金属組織調査、調査3:硬さ分布測定、調査4:溶接欠陥の形状と寸法の測定次に、部分試験体の調査結果に基づいて有限要素解析を行い、次年度の研究に必要な相似試験体の設計を行った。 繰返し載荷試験における溶接のばらつきを排除するために、相似試験体を用いるわけである。相似試験体は溶接を施した部分試験体の応力三軸度とひずみ集中率を再現するもので、鋼素材から製作する必要がある。応力三軸度とひずみ集中率は溶接継目の形状と溶接条件によって変化するので、それを代表する3ケースの相似試験体を決定した。このとき、相似試験体の応力三軸度とひずみ集中は人工ノッチで与え、ノッチの深さとノッチ先端のルート半径によってそれらの値を調整し、実際の溶接接合部の状態を再現する試験体の設計が可能であることを明らかにした。
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