研究概要 |
鉄骨構造物の柱一梁接合部の実態調査を行い,溶接部のミクロ形状と硬さ分布を調べた。この調査は接合部の破壊検査となるので,実機に合わせて模擬試験体を実大サイズかつ現行溶接仕様で製作し,そこからサンプルを切り出したものである。鉄骨接合部のうち,1995年兵庫県南部地震で破壊の被害を受けた接合形式に焦点を絞り,角形鋼管柱とH形鋼梁の接合部,角形鋼管柱と通しダイアフラムの接合部,溶接組立箱形断面柱とH形鋼梁の接合部を対象とした。亀裂発生の原因となるミクロ形状ノッチについては溶接止端を含むマクロ試験片を拡大スキャンして寸法を計測し,溶接入熱による材質ノッチについてはマイクロビッカース硬さ試験により材質の変化を調べた。 その実態調査結果に基づいて有限要素解析モデルを作成し,接合部の応力-ひずみ状態,特に,応力三軸度と等価塑性ひずみについてシミュレーションを行った。さらに,この実際の応力-ひずみ状態を再現しうる母材試験体について有限要素解析で検討を行い,3ケースの相似試験体によってこれら実際の接合部を代表できることを明らかにした。相似試験体は矩形断面の鋼梁と円形断面の鋼棒である。前者にはU型とV型の2種類の人工ノッチを与え,後者にはV型の人工ノッチを与えた。この相似試験体の成立性が確認されたことによって,本研究が目的としている地震入力のランダム振幅が破断変形能力に与える影響の解明について溶接のばらつきを排除して研究を進めることができることとなった。 この相似試験体を1枚の厚鋼板から切り出すことによって材質のばらつき要因を排除することとした。先ず,この鋼板から採取した引張試験片によって材料力学的性質を調査し,またシャルピー衝撃試験によって破壊力学的性質を予め調査した。かなり大きなサイズの鋼板であるがほぼ一定した材質であることが確認できた。 繰返し振幅による破断性能の調査の第1段階として,矩形断面鋼梁と円形断面鋼棒それぞれについて単調載荷実験と一定振幅載荷実験を行い,従来から知られている破断履歴の相似則(桑村-高木則)を満たしているかどうかについて分析を先ず行った。その結果,かなり高い精度で相似則が成立しており,実験方法の妥当性が確認された。これにより,次年度予定しているランダム振幅での破断実験の準備が整ったことになる。
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