相似試験体を製作し変動振幅履歴を与えて破断までの塑性変形能力を調査する実験を行った。相似試験体は、昨年度までの研究に基づくもので、現実の鋼構造溶接接合部の応カーひずみ状態を再現し、かつ溶接のばらつきを排除するために鋼材(母材)に人工ノッチを設けたものである。相似試験体の形式は、3点繰返し曲げ矩形断面梁と1軸繰返し引張圧縮円形断面棒の2種類とした。変動振幅履歴は、漸増振幅、漸減振幅.混合振幅、平均変位増加型振幅、片振幅の5つの基本形、および地震応答解析に基づいて決定したランダム振幅である。このとき、用いた地震波は神戸波、八戸波、エルセンtロ波の3種類で、それぞれに対して構造周期は0.5秒と1.0秒の2ケースとした。これらの実験結果を総合すると、当初、想定していたマイナーの線形累積損傷則が危険側の破断予測となることが判明した。その理由として、正側と負側の作用力で生じる累積変形の偏りが影響を与えていることが明らかとなった。これに基づき、正負の偏りを考慮した損傷則を新たに定式化し、予測精度を上げることができた。 破断変形能力に対する振幅履歴の影響をダイレクトに調査した研究は国内外で初めてであり、その成果は、地震による構造物の応答性状に応じて破断が生じるか否かを評価する手法が提示できることである。ただし、これは相似試験体という理想化された試験体での実験であるので、実機の溶接部を含む部材で検証する必要がある。これは、次年度に計画されている。
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