研究課題
本研究では、強い放射線照射環境で使用される材料として期待されている結晶性セラミックス材料について、最新の電子顕微鏡技術による実験と分子動力学計算によって、イオン照射によって形成される構造欠陥を実験と理論計算の両面から原子分解能で解明し、電子励起過程が照射欠陥生成とその挙動に及ぼす効果を明らかにすることを目的としており、(1)イオン照射に伴う照射欠陥の形成とその安定性に関する実験、(2)欠陥形成挙動に関する分子動力学計算機実験、の2項目を研究の主たる柱としている。本年度に得られた成果の概略は以下の通りである。(1) MgO・nAl_2O_3(n=1.1)単結晶試料に対して日本原子力研究開発機構のタンデム加速器を用いて350MeV Au^<28+>イオンを10^<16>m^<-2>レベルまで照射した。イオン侵入深さ方向の構造変化を明らかにするためにイオン侵入方向に沿った断面観察試料を作成した。(2) 電子チャンネリングX線分光実験(HARECXS)により、照射試料のカチオン配列の定量解析を行い、イオン侵入深さの関数として局所的な不規則化を明らかにした。その結果から、高速イオンによる電子励起密度が10keV/nm以上になると、カチオンの不規則化が進むことが明らかとなった。一方、イオントラックとして明らかな結晶構造の乱れが残る閾値は12keV/nm以上であり、イオントラックが形成されなくても原子配列の変化が進むことが実験的に示された。(3) 分子動力学計算による原子挙動の詳細を解析した結果、陽イオンが格子間位置に変位すると隣接する4面体位置にある陽イオンの協同的な変位が誘発されることが明らかとなった。この結果は、イオン照射により4面体位置の陽イオンが優先的に変位する傾向を説明するものであり、その原子レベルでの機構が明らかにされた。(4) 蛍石型結晶構造を有する酸化セリウムに対しても、同様な高速イオン照射を行い、電子励起による格子欠陥の生成と非熱的拡散の誘起の競合により、欠陥集合体の形成はイオン侵入深さの関数として複雑に変化することが示された。
すべて 2010 2009
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (7件)
Nuclear Instruments and Method in Physics Reserach B (印刷中)
Nuclear Instruments and Method in Physics Reserach B 267
ページ: 960-963