平成21年度は、(1)難水溶性元素の親水錯体化学技術の開発、ならびに(2)水溶液プロセスによる酸化チタン光触媒の作製、の2点について研究を遂行した。具体的な成果は以下の通りである。 (1)ケイ素は種々の機能性セラミックスを構成する重要な元素であるが、水溶性のケイ素原料が存在しないため扱いにくいアルコキシドあるいは酸化物を使わざるを得なかった。我々は、テトラエトキシシランおよびプロピレングリコールを用いて水溶性ケイ素原料(Water-Soluble Silicon compound、WSS)を作製することに成功した。この物質はプロピレングリコールの一方のヒドロキシ基が脱プロトンしてケイ素に配位し、もう一方のヒドロキシ基が親水性を担うことでケイ素の水溶化を可能にしている。このWSSを原料に用い、並列合成スキームにより(Y_<0.87>Ce_<0.15>Tb_<0.15>)_2SiO_5及び(Y_<0.965>Ce<0.5>Tb_<0.3>)_2SiO_5という強発光新組成蛍光体を見出すことに成功した。WSSによる並列合成スキームは迅速に膨大な数のサンプル合成が可能であり、蛍光体に限らず新規機能性材料の開発に優れた手法である。 (2)水溶性酒石酸チタン錯体を原料とし、過酸化水素共存下で水熱処理することで従来の工業的合成法では得られなかったナノサイズのルチル型二酸化チタンを合成することに成功した。この試料は市販のルチル型二酸化チタンの約20倍の比表面積をもち、市販ルチルの約5倍の高い光触媒特性を示した。また、水溶性グリコール酸チタン錯体を原料とし、酢酸ナトリウム共存下で水熱処理することで高分散ブルカイトゾルを合成し、これを用いてブルカイト型二酸化チタン薄膜を作製することに成功した。この薄膜は市販の光触媒コーティング剤で作製した薄膜に比べ圧倒的に速い光親水化速度を示し、セルフクリーニングや防曇コート剤として極めて有望な材料といえる。
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