研究概要 |
オーステナイト系ステンレス鋼やニッケル合金のようなオーステナイト系材料は、耐熱耐食材料として優れ、発電や化学プラントなどで非常に過酷な環境で使用されるが、粒界劣化現象の克服が大きな課題として残されている。一方、低エネルギー粒界(対応粒界)は粒界劣化現象に対して強い抵抗性を有することから、粒界での原子配列をナノレベルで低エネルギー構造に変化させ、材料中の対応粒界密度を高めることによって粒界に起因する劣化現象を抑制する粒界ナノ工学が注目されている。そこで、本研究では、粒界ナノ工学的手法を種々のオーステナイト系材料に駆使し、超高対応粒界密度化技術を確立するとともに、粒界劣化現象への抵抗性を評価することを目的とする。 昨年度は、304,304L,316,316Lオーステナイト系ステンレス鋼に対して加工熱処理条件の最適化を探索し、いずれも85%以上の極めて高い対応粒界密度を有する超高対応粒界密度(粒界工学制御)材料を作製する技術を確立した。また、粒界工学制御により、304および316鋼の硫酸・硫酸第二鉄腐食試験では高い耐鋭敏化特性を、304鋼のアーク溶接影響部では粒界腐食抑制を、304鋼では応力腐食割れ抑制が確認された。本年度は、レーザ表面照射後熱処理による304鋼の粒界工学制御法と、高窒素オーステナイト鋼への粒界工学適用可能性を示すとともに、Coriou試験から粒界工学制御304Lおよび316L鋼が高い耐過不働態粒界腐食特性を有すること、電子線および中性子線照射実験から粒界工学制御が照射損傷に抵抗性を示すことなど新たな粒界工学制御の効能が発見された。また、粒界工学制御材料の引張試験を行った結果、強度特性が初期母材に比べて幾分低下するが、規格範囲内であることが確認された。304粒界工学制御材料の高温クリープ試験はまだ継続中であり、次年度以降に結果が得られる予定である。
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