既往の研究において、IL-6受容体シグナル伝達サブユニットであるgp130、および幹細胞因子受容体c-Kitの細胞外ドメインを抗フルオレセイン(F1)抗体のScFvで置換したキメラ受容体(SCFV-gpl30、ScFv-c-Kit)が、抗原であるF1標識BSA(BSA-F1)依存的な増殖シグナルを伝達することを示した。 造血前駆細胞の増幅は複数のサイトカインの添加によって効率よく達成されるため、それぞれのサイトカインに対するキメラ受容体を作製して遺伝子導入することが考えられるが、導入遺伝子の数やサイズが大きくなるとウィルスベクターのパッケージング効率や遺伝子導入効率が下がってしまう。従って本年度はまず、gp130とc-Kitをタンデムに連結したキメラ受容体(ScFv-gp130-c-Kit、ScFv-c-Kit-gp130)を作製し、1つの遺伝子で2つの受容体シグナルを伝達できるかどうかの検証を試みた。各キメラ受容体をIL-3依存性血球細胞株Ba/F3にレトロウィルスによって遺伝子導入後、BSA-Fl存在下で培養した結果、遺伝子導入細胞が選択的に増幅された。選択後の細胞をシグナル伝達解析した結果、STAT5などのシグナル伝達分子が活性化されていることが分かったが、gpl30とc-Kit双方のシグナルが伝達されていることは検証できていないため、マウス骨髄細胞で今後検証していく予定である。また、樹状前駆細胞や造血前駆細胞での増幅効果が単独でも示されているスロンボポエチン受容体c・mplを用いて新たにキメラ受容体を作製し、機能解析を試みた。Ba/F3細胞での増殖アッセイの結果、ScFv-c-mpl発現細胞はBSA-Fl濃度依存的に増殖促進されることが示されたことから、現在はマウス骨髄から取得した造血前駆細胞での増幅効果を検証中である。
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