昨年度までに、樹状前駆細胞や造血前駆細胞での増幅効果が示されているTPO受容体(c-mpl)またはSCF受容体(c-kit)の細胞外ドメインを抗フルオレセイン(FL)抗体のScFvで置換したキメラ受容体(ScFv-c-mplまたはScFv-c-kit)を構築し、マウス骨髄から取得した造血幹細胞での増幅効果を検証した結果、ScFv-c-kit導入造血幹細胞ではキメラ受容体からのシグナルによる顕著な増殖は見られなかったが、ScFv-c-mpl導入造血幹細胞では、天然型c-mplのシグナル伝達能力に比べると大きく劣るものの、キメラ受容体からのシグナルによる増殖が見られた。そこで本年度はキメラ受容体ScFv-c-mplのシグナル伝達能力をより強くすることを目標とした。造血幹細胞の増殖はSTAT5により正、STAT3により負に制御されるという報告に基づいて、ScFv-c-mpl細胞内ドメインC末端付近にあるSTAT3結合モチーフを除去したScFv-cmpl (trunc.)、あるいはそのSTAT3の結合モチーフ(YxxQ)をSTAT5結合モチーフ(YxxL)に変異させたScFv-cmpl(Q to L)を構築した。これらのキメラ受容体発現レトロウィルスベクターをマウス造血幹細胞に導入し、遺伝子導入細胞を、SCFのみ、SCF+TPO、SCF+BSA-FLで5日間培養し、各条件下で増幅された細胞数を比較した。その結果、ScFv-c-mpl (trunc.)導入造血幹細胞では、SCF十BSA-FLで増幅した場合、SCF+TPOで増幅した場合とほぼ同等の増幅効果が得られた。以上より、ScFv-c-mpl (trunc.)キメラ受容体を用いて遺伝子導入造血幹細胞を効率よくかつ選択的に増幅できることが示された。
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