この研究では、色知覚の基礎にある神経機構を細胞レベルで理解する研究の一環として、チョウ類視覚系を対象に、(1)視細胞間結合の機能解析、(2)LMC分光感度の解析、(3)色覚系入力視細胞の行動学的同定について、焦点を絞った実験的研究を行っている。平成18年度は、視細胞軸索末端における分光感度の解析、視葉板神経回路の免疫組織化学的解析、波長弁別能の解析および混色実験の準備の3項目を掲げ、それぞれについて以下のような成果を得た。 ●視細胞軸索末端における分光感度の解析 視細胞の分光感度を、視細胞間結合が多く見られる視葉板(第一次視覚中枢)で記録し、それを網膜部分で記録される分光感度と比較検討した。18年度中には視細胞同士のカップリングを明確に示すような生理学的データは得られていない。一方、視髄(第二次視覚中枢)にまで軸索を伸ばす長受容細胞の末端形態に、分光感度による多様性が見られるらしいことがわかった。 ●視葉板神経回路の免疫組織化学的解析 アゲハの中枢神経系におけるセロトニンの分布を、包埋後標識免疫組織化学法で、光学顕微鏡レベルで調べた。特に視葉板に注目してセロトニン細胞の分布を観察した結果、視葉板の前方と後方とで染色の密度が明らかに異なることが確認された。 ●波長弁別能・混色 特定波長の単色光に対して吻伸展するように条件付けしたアゲハを用い、波長弁別能を調べた。その結果、420、480、560nmに波長弁別能の特に高い領域が見つかった。アゲハ網膜に存在する6種の視細胞(紫外線、紫、青、緑、赤、広帯域)のうち、どの細胞が関わっているかを推測するために、シミュレーションを行ったところ、紫と広帯域を除外したときに行動実験の結果とよく一致することがわかった。
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