この研究では、色知覚の基礎にある神経機構を細胞レベルで理解する研究の一環として、チョウ類視覚系を対象に、(1)視細胞間結合の機能解析、(2)LMC分光感度の解析、(3)色覚系入力視細胞の行動学的同定について、焦点を絞った実験的研究を行っている。平成19年度は、視葉板におけるLMC分光感度の解析、視髄における長視細胞末端の形態、視葉出力経路の解剖学的同定、混色実験の4項目を掲げ、それぞれについて以下のような成果を得た。 ●視葉板におけるLMC分光感度の解析 視細胞末端における分光感度を視葉板で記録したが、視細胞間結合を明確に示すような結果は得られなかった。かわって、視葉板で視覚二次ニューロンLMCの分光感度を記録した。結果、それぞれ3タイプの個眼に由来すると考えられる3種類の分光感度が記録された。 ●視髄における長視細胞末端の形態 ひとつの個眼に含まれる視細胞9個のうち、視細胞1、2、9番は視髄(第二次視覚中枢)にまで軸索を伸ばす長受容細胞である。このうち視細胞1、2番の軸索末端形態を視髄で調べた。結果、の末端形態に、分光感度による多様性が見られるらしいことがわかった。 ●視葉出力経路の解剖学的同定 アゲハ視葉のさまざまな部分に蛍光色素を注入、脳葉への細胞投射を解剖学的に調べた。結果、18本の視葉出力経路を同定した。うち9本は脳の同側がわのみに、3本は脳の反対側に、1本は脳の両側に、5本は反対側の視葉に伸びていた。 ●混色実験 2つの波長をまぜた光に対して吻伸展するように条件付けしたアゲハを用い、混色が成立するかどうかを調べる実験を行なった。単色光との対比、特定の反射スペクトルをもつ色紙との対比を行なったが、明確な結果は得られていない。更なる条件検討が必要である。一方、モンシロチョウでも求蜜行動を指標にして色覚を調べる実験を行ない、色覚の存在を確認することができた。なお、アゲハで4原色の色覚系を証明したProc Roy Socの論文は、国内外の新聞誌上で紹介された。
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