この研究では、色知覚の基礎にある神経機構を細胞レベルで理解する研究の一環として、チョウ類視覚系を対象に、(1)視細胞間結合の機能解析、(2)LMC分光感度の解析、(3)色覚系入力視細胞の行動学的同定について、焦点を絞った実験的研究を行っている。平成20年度は以下の成果を得た。 ●視葉板におけるLMC分光感度の解析 視葉板における視覚二次ニューロンLMCの分光感度の記録にホールセルパッチ法を導入した。結果、かなり安定した記録が得られるようになり、それぞれ3タイプの個眼に由来すると考えられる3種類の分光感度を得た。ただし、記録後に単一LMCを色素注入で確実に染色するまでには至らなかった。記録・染色技術の更なる改良が必要である。 ●視葉出力経路の解剖学的同定 アゲハ視葉のさまざまな部分に蛍光色素を注入、脳葉への細胞投射を解剖学的に調べた。注意深い組織観察の結果、脳内ではキノコ体を含むさまざまな領域に少なくとも20本の神経束が観察された。シナプシン抗体で染色した脳の3D像をマールブルグ大学Uwe Homberg教授と共同で構築することに成功した。今後の脳構造解明に資する重要な成果である。 ●モンキチョウ個眼多様性の分子解剖学的同定 モンキチョウの個眼多様性を、視物質オプシンの同定、ィンサイチュ・ハイブリダイゼーションによるオプシンmRNA分布の確定、電顕に依る詳細な解剖の方法で調べた。結果、モンシロチョウには紫外受容型1つ、紫受容型2つ、長波長受容型1つの計4つのオプシンが見つかり、その分布様式から個眼には3タイプあることが確認された。個眼の微細構造を調べたところ、感桿中央部に明瞭な狭窄が認められた。これは複眼では初めて見つかった構造で、感桿周囲色素によるフィルター効果を高める機能があるものと考えられる。
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