研究概要 |
食植性昆虫の「食草の変換」は単に新しい食草を認知し摂食出来るかという生理的なレベルの解析で理解できるような単純な現象ではなく,微小生息地の選択、産卵や休眠のタイミング、同じ餌資源を争う他種との競合など、昆虫の生活史全般に影響を及ぼす複数の現象の複合体(シンドローム)であり、食草変換が昆虫の生活史の様々な局面に同時進行的に影響をあたえることによってただちに完全な生殖隔離がひき起こされる、すなわち種分化が完了すると考えることができる。そこで本研究ではこの仮説の検証を、研究の蓄積のあるマダラテントウ類とハムシ類を材料として試みる。具体的には、「食草の違い」が食植性昆虫の生活史のどのような局面に影響し、どのような形で生殖隔離に寄与するかを野外調査、交配・飼育実験、分子マーカーによる解析をとおして要因別に詳細に評価し、食草変換が引き起こすシンドロームの内容と個々の要因が生殖隔離に及ぼす影響の相対的な大きさを把握する。特に、昆虫とその食草の季節消長の一致・不一致が食草選択、ひいては生殖隔離の重要な要素となるという可能性に注目し、網室を利用した実験や季節の明瞭な温帯(日本)と季節性の不明瞭な熱帯(インドネシア)に生息する種の食草利用パターンの比較など、いくつかの方法によって解析する。
|