研究概要 |
Vibrio alginolyticusの極べん毛は、ナトリウムイオンの共役による電気化学ポテンシャル差をエネルギーにして回転する。べん毛モーターの回転に必要なタンパク質としてPomA, PomB, MotX, MotYが同定されており、このうちPomA, PomBは内膜でナトリウムイオンチャンネルとして機能していると考えられている。MotX, MotYはTリングを形成することが示されている。ビブリオ菌の基部体は、大腸菌と違いTリングが有るという点に加え、LPリングが大きいという点が異なっている。本年度は、精製した基部体画分に含まれるタンパク質のアミノ酸配列解析をしたところ、FlgTを同定した。この結果は、FlgTが基部体に結合していることを示すことができた。また、flgT欠失変異体の運動能の解析から、FlgTがべん毛の形成と回転両方に部分的に関与していることが示唆された。flgT欠失変異体から基部体を精製し電子顕微鏡で観察すると、LPリング部分が小さくなったことから、FlgTは、これまでLPリングと考えられていた構造の外側の部分を占め、Hリングと名付けた構造を形成することを明らかにすることができた。flgT欠失変異体の基部体では、Tリングに加え、MotX、MotYもほとんど失われる。さらに、共溶出実験によってFlgTとMotYが相互作用することが示されたことから、FlgTは、MotX、MotYを基部体に集合させることによって間接的にべん毛の回転力発生に寄与することが示唆された。ビブリオ菌のべん毛モーターは大腸菌より3~4倍近く速いスピードで回転できることから、ビブリオ菌特異的なTリングやHリング構造が、このような高速回転を保持するための強固な軸受け構造と、安定した固定子-回転子間相互作用を達成するために必要とされるのかもしれないという新しい知見を得ることができた。
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