我々は以前にPD6Fによる繊維芽細胞の運動性上昇にAktが必須の役割を果たすことを報告した。Aktの活性型は移動中の細胞の前方(先導端)に局在し、前後の極性の確立と維持に働くことも明らかになった。このような前後の極性形成は、癌細胞が浸潤する際にも貢献する可能性が十分に考えられる。しかしながらこのときAktがいかなるメカニズムで細胞の前後極性形成を引き起こすかは明らかではなかった。 本研究において、Aktとその活性化因子PDK1がP13キナーゼからのシグナルのポジティブフィードバックに関与することを示した。このポジティブフィードバックは移動細胞の先端部で観察され、Aktシグナルを抑制すると細胞の前方に特徴的なラフリング膜等の構造が阻害された。さらにAktは細胞の後方を規定するRhoと互いに抑制しあうことを示す結果を得た。このPI3K-Akt経路のポジティブフィードバックとRhoとの相互抑制は、細胞の前後極性の確立メカニズムを説明しうると考えている。長い距離を移動する繊維芽細胞等の細胞においては、前後極性の維持に微小管が関与することが知られている。しかし、細胞外のシグナルに応答していかなるメカニズムで微小管が配向するのかについては不明であった。本研究において、細胞の前後極性の確立に関わるAktが、その後の微小管の安定化に重要な役割を果たす事を明らかにした。Akt活性を抑制すると配向を持った微小管の重合が阻害され、また活性型Aktを発現するだけで安定な微小管の量が上昇した。さらにこの際のAktの基質について検討中である。
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