個体発生において胚は、背腹、前後、左右の3軸を形成することで、胚全体にわたる位置情報を獲得し、個々の細胞はその位置情報に応じた挙動を示す。本研究は、このような体軸及び位置情報の形成を取り巻くシステムの全体像を明らかにすることを目的に行われた。本年度は、ENUミュータジェネシスによって胚のパターニングに影響が生じる劣性変異をスクリーニングした。劣性変異のスクリーニングは、胚の形態(外観)や胸腔臓器の形態に着目して、E8.5並びにE13.5胚を対象に行った。さらに、心臓形態や肺の分葉に影響を及ぼさないような左右軸異常を検出するため、一部のラインについてはC3Hにコンジェニック化したnodal lacZ knock-in mouseを利用してnodal発現を可視化した。 理論上、G1の700ラインのスクリーニングですべての遺伝子の変異を検出できるとされているが、本研究ではパイロット実験として55ラインのスクリーンングを試みた。E8.5における観察で、ENUによると見られる形態異常を示した胚は15ライン存在し、nodalもしくはPitx2発現を指標に調べた40ラインのうち、その発現に異常が認められたものは2ライン存在した。E13.5におけるスクリーニングでは、ENUによると考えられる形態異常を示したものが30ライン存在した。E13.5で観察された異常では、脳ヘルニア8ライン、左右形態異常6ライン、指形成異常4ライン、小眼症3ライン、顎形成異常3ラインなど多彩な形態異常が認められた。このような異常を示すラインの中で、メンデル遺伝の様式に従うものについては胚の回収を進め、DNAを抽出して今後の解析に備えた。また、研究課題の終了にともない、これらのラインのG1雄もしくはG2雄の精子を凍結保存し、マウスの維持を終了した。
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